平成14年7月12日。
 
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嫌いな香りを嗅いだのです。
花という花を全部集めたような、甘ったるくて、
どこか爛れているのかというぐらいの怠惰な甘さの香りを嗅いだのです。
・・・。

気が付いたら、ベッドの上でした。
嗅いだ場所とはまったく違う、ベッドの上。

ひんやりとした消毒薬の匂いと、空調の冷たさと、ゆりの匂いで
小さく固まった匂いのなかには、あの匂いはありませんでした。

それでも、あの香りを持っていた人が怖くて、仕方が無くて
それでも生活しないといけなくって。

ストレスで食がおちて、睡眠が減って・・・だんだん気持ちが減っていって。
時間的・距離的に離れても、その怖さは薄れなくて・・・。

だから、香りを嗅ぐと気を失うのです。
だから、私は他の香りを嗅いでいないと、常に香りをつけていないと怖いのです。

いつ、その香りが自分からするかわからないから。
他の香りでごまかせる限り、ごまかしつづけて生きたいのです。

そういって目を伏せながら、お話してくれたあの人は、
薄い肩をもっと小さくして泣いていました。

同じ香水でも、違う人が付ければ香りはまったく違います。
その微妙な香りの差を、人は好きになったり嫌いになったりします。

その人が居ないときにでもふと思い出すその香り。

もしかしたら、死んでしまっても他の方の記憶にもっとも残るのは
小さな違いの香りなのかもしれません。

香りで、人は狂うのかもしれないなぁと、しみじみ思った1日でした。
      
 
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