平成25年9月15日。
 
Picture
9月3週。

縫っておりました。


原理から言えば、「こんなん欲しい」というイラストから縦・横・斜めは何センチづつであるか?を計算し、
ただひたすら紙の上にデザインだか計算結果なんだか不思議なものを書きこんでいき、
それを布に合わせてひたすら線を引き、ハサミで切り抜いては端を処理し、仮止めしてから、
ミシンで果てしなく縫い合わせ、ひっくり返したり、アイロン掛けたり、また塗ったり、アイロンかけたり、
アイロン掛けたり、すてミシンかけたり、ボタン付けたりしたら、出来あがるのがハロウィンのあれやこれやです。

机上理論上、最初のイラストから計算さえ間違わなかったら、問題になるところはありません。
しかし、世の中には机上理論の上に「切ない現実」が混在しているのが周知のところとなっております。

つまり、多大に「こんなはずじゃなかった―!」という大小様々な問題と、
その問題を誰かになすりつけたいという、責任転嫁の気持ちが延々と連なっているのです。


そもそも、「あれが欲しい」という欲求は、大体「シャーロック・ホームズの冒険」に出てくる各人物の
良い布やらいい仕立てやら贅沢な布使いに見惚れる所から始まります。

布効率よりも「ひらっと」具合に職人が全力傾けたかのようなドレープ。
ホームズがくるりと振り返った時に美しく流れる、コートの裾。


たまりません。


やはり作るのであれば、「その瞬間」の美しさの為に全てを捧げるべきなのです。
ハラショー。

頭いっぱいにそんな気持ちよさだけでイラストを描き上げると、大体がひらっひらのふりっふりになります。
端的に述べると、円、もしくはだ円の変化球です。

これを型紙に移し始めると、今度は延々と円の計算となります。
襟の方は普通のラインであっても、裾は2πrです。
引いても引いても終わらない。定規では引けない微妙ななだらかな線を、ひたすら描く事になります。
地平線も見えてきます。

机の上で引ける程度であれば、無心で引き続ければ終わりますが、
床で引く必要がある大物になると、床の凸凹が敵となり線が歪みます。ひたすら修正です。
大体ここらへんで、「誰があんなイラストを描いたんだ」とぶつくさ言い始めます。

全ては愛の為です。
しかし、愛も全ては引き受けてくれません。
どんなに愛していても、ゆがんでくることがあります。
最初のころは分からなくても、だんだんと時間をかけて寄り添っていくと、じわじわと気づいてくる。
それが、愛の歪みなのです。

仮に愛が歪んでいなくても、共に進んでく布にだって特性があります。
斜めに歪みやすいもの、アイロンかけたらうっかり縮むもの、洗濯バサミに挟んでおいたら伸びてしまうもの。
特性を見誤ると、あれほど綺麗なものであっても不思議な形となっていきます。

針の打ち方、仮縫いの仕方、ミシンの掛け方だって同じです。
あれほど愛だけが溢れていたのに、ほんの一瞬気を抜いたり、集中が切れたら線が歪んでいってしまいます。
修正することは可能ですが、一瞬の気の緩みは恐ろしいほどの時間や代償を要求します。


ここらへんで、愛は現実に駆逐され始めます。


あんなに愛を傾けていたのに、このほんの一瞬気を抜いただけでのこの仕打ち。
誰にも責任転嫁出来ない愛だけの物事は、ここに来て一気に憎悪へと気持を駆り立てます。


誰だ、これやった奴。


ミシンをかけると出てくる、数ミリの布のずれ。
端ミシンの処理をすると出てくる、実線(ミシンで縫う場所)のずれ。
切っても切っても終わらない、地平線すら見えるだ円の切り取り線。
型紙用紙(B判用紙)ですら間に合わず、延々とテープで貼り合わせては作る大きい紙。
小学校さえ卒業すれば、2度と生活で会う事もないだろうと思ってた、延々と続く円(3.14)の計算。


一つ工程を進めるごとに、一つ前の工程を行った人に腹が立ってたまりません。
ベストはつくしていたとは思います。
しかし、せめてもう少し丁寧に作れなかったものなのか!ええい、愛はあるけど技術が足りない!へたくそめ!


罵倒したい気持ちは一杯ですが、それでもどうにかその工程で出来うる限りのごまかしを行い、
次の工程に進まなくてはキリがありません。
愛は愛ゆえに永遠かもしれませんが、現実には〆切があります。永遠に完璧を目指している暇はありません。

そうして、どうにかこうにか愛が現実にくたびれきった頃になんとか完成したりします。
出来あがったものは確かに愛の結晶ですが、「ああすればよかった」「こうすればよかった」などと、
恋人と別れた後のように、後悔ばかりが募るのです。


次こそは、ただただ美しいひらっと具合が作りたい。
自分が満足するためだけの、ただただ綺麗なものを作りたい。


こうして、次の運命に出会うまで、後悔と理想の愛だけを探し求めて徘徊し、
行き当たりばったりの愛を見つけては、何度も何度も失敗を繰り返し、そうしては罵倒を繰り返すのです。


誰がこのミシンかけたー!
巻き込んでる!巻き込んでるよ!!


ぎゃー。






というわけで、今期もハロウィンのひらっとしたものを縫っております。
愛が技術不足に負け、妥協と迎合したあたりで、現実に戻る予定であります。



ひらっと!
      
 
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