3月1週
音楽が無い人生なんて。
とはよく言ったもので、世界には音楽が溢れています。
お店にはBGM、電車の往復は自分で選んだ音楽リスト。
どちらもない場合には、鼻歌でなんとかしたりいたします。
気付くと脳内で流れている、幾つかのフレーズ。
意識して聞いていると、ゆるゆると続きをひき、曲へと変わっていくのです。
そんな不思議な脳内音楽シリーズ。
「ふんかふんか」と一人で楽しみ続けていくと、
そのうち、リスト化だってしていきます。
機嫌が良い日は「ガチャガチャバンド」からメドレー。
色々急ぐ時には「天国と地獄」を一通り。
気付けばかかっているこれらの音楽。
時に間延びし、変調し、編曲される音なんぞを聞き暮らしておりましたが、
平穏無事な音楽人生というものは、唐突に打ち破られるものです。
たとえば、今日。
朝も早くから「ふんかふんか」と鼻歌で盛り上がり、そしてまさに絶頂に!
そんな瞬間に電話が鳴りました。
大変ご機嫌なその瞬間です。
特に何も考えず、メモ帳とペンを手にしてから電話を取りました。
「ごめんねー。しくじったのー。
今事故って、これから救急車ー。」
?
何事も経験ですが、ハリセンで殴られると物凄く驚きます。
一瞬思考がとまるという類ではありません。
殴られた瞬間に、内言や思考、時間概念から脳内BGMまで、
これらが見事に放物線をえがいては、自分の外へと出ていく感じがいたします。
自分の中身だけが綺麗にどこかへ行ってしまったかのような、
一種独特の感覚です。
話を元に戻します。
脳は一瞬処理限界を越え、絶妙な間をとった後、まず脳内のBGMを変えました。
わざわざオーケストラを設置、指揮者を拍手で迎えた上で、
「剣の舞」を演奏しはじめたのです。
パニックと物理処理対応の開始でした。
物理処理といえば、5W1H。
いつ:今
どこで:通勤最中に
だれが:上司が
だれに:車っぽい
どうした:転校生だったら嬉しかったような出来事がどかーんと。
今後どうなる:救急車で運ばれる。
今日の予定:代理不可能な会議が朝と昼と晩。
導き出される対応:こりゃ大変だ。
知りたい事:重症度。
慌てれば慌てるほどに、絶好調に演奏される「剣の舞」と遅れて行く各対応。
なかなかにシュールな状況です。
後々入ってくる目撃情報も、その速度を速めます。
「なんか、救急車の人と立って話してました。」
「かえるさんによろしくって、言づけを」
…一体何があったのか。
不安が上がればあがるほどに速度があがり、音量があがり、
そして、指揮者は指揮棒をふりまわす。
心配なのか、動揺なのか、もう一体どうすればいいのか。
と、1人頭を抱えつつ、それでも行う一人ぼっちの全対応。
何とか対応を終え、後は待つだけという状況に到った時、
再び電話が鳴りました。
「あのねー。処置終わったから退院するー。
午後からは出るからー。」
!?
物凄く驚く事があった時、人はBGMを変えて「非日常」に対応します。
それは午前中によく分かりました。
しかし、それを上回る事があったらどうなるのか。
かえるは今までそれを考えた事はありませんでした。
何かヒントはないものか?と、脳内のオーケストラを見渡したところ、
指揮者は諦観したかのように楽譜をめくり、新しく指揮棒を振りました。
ボレロ/ラヴェル
あれをいつも以上にのったりとゆったりと、過去を惜しむかのような切なさと共に
しみじみと演奏しはじめたのです。
音楽のない人生なんて。
キャッチフレーズである!と言われてしまえば、その通りです。
しかし、音楽は確実に生活に忍び込み、共に歩み、気持ちをかきたて、
傍に居ては、慰めてくれます。
脳内BGM。
あれは、人間が何とか平衡を保つために人が作り上げた、
素敵機関ではないか?と、思っております。
気持ちは、大体音楽でなんとかなります。
しております。
まる!
追記:上司は午後からの会議より無遅刻無欠勤無脱走中です。
元気です。
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