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初恋というのは、「初めて特定なモノに必要以上に思いを寄せること」定義するならば、
あれは初恋だったのでは? と考えるようになったかえるです。
既に了解されたでしょうが、色っぽい話ではありません。
初めて、「大事にしたいけど、独り占めしたくてたまらない」という気持ちになったのは、
ガラスの戸棚いっぱいに詰め込まれた本でした。
読めば読むほど、知らない状況や想像したこともない世界に浸ることが出来、
自分自身が居なくなるような感覚を思う存分味わうことが出来る戸棚。
当時は誰かに読んでもらわないと話を知ることが出来なかったのですが、
それでも、知りたくて知りたくて、もっと先が知りたくて勝手に覚えて読み込んで。
人がいようがいまいが、その棚に近づきさえすれば楽しいことがあると思い込んで、
そうやって必要以上に固着した戸棚が、かえる的には初恋だったのでは? と、
最近思うようになりました。
「初恋は実らない」という言葉どおり、恋は念願成就しませんでしたが、
実らなかったその代わりに、この歳になっても「本の匂いのする人」というのに、
かえる非常に弱い気がするのです。
しかも、微妙に古い本の匂い限定で。
大昔の、一冊一冊書き写すような本まで古い必要はないのですが、
十年二十年ぐらい昔の本の匂いというのは、新書のインクの良い香りとはまた匂いが違い、
甘いような、くすぶったような匂いがするのです。
紙の質が悪かったり、日に焼けたりして、手で触れるとぱりりと砕けてしまう部位が発生し、
非常に扱いが難しいものへと変化するくせに、言い回しが丁寧かつ優雅であったり、
訳文が非常に綺麗だったり、そのまんまだったりと、非常に独特な酩酊感をかもし出すのです。
香りと、見慣れる印字タイプと、挿絵と、文体。
今まで色んなものに恋をしてきたのですが、
やはり、少年少女世界の名作文学全集に勝てるような魅力的な恋はなかなか出来ないのです。
あの読んでも読んでも次があるという安心感と独特の言い回し。
箱からそろりと抜き出す時の幸せ感。
何度読んでもよいものです。
うっとり。
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