平成18年9月8日。
 
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一日三回まででないにしろ、毎日キチンとやっつけた。
三ヶ月に一回の定期検診も頭を下げた。
にもかかわらず、目の前の白衣は重々しくそう呻いたのだった。

口の中に、ぽつりと赤く膿袋ができたことがあった。
すぐに治ると思っていたが、いつまでたっても消えはしない。
さすがに気になり歯科医に伺いにいったが、どの歯科もそのうち治るとのことだった。
ならばと放っていたところ、確かに3年ほどかけて消えてはいった。

それからしばらくたった最近のことである。
何度も何度も同じ歯が、「バキリ」と顎が割れるような音を立てて割れるようになった。
腫れ物のあった場所の歯だったのでそのたびに脂汗を流すのだが、
歯科医に行っても「もろい歯だから」との説明のみだった。

しかし、それは何でもおかしい説明ではないかと、不信感は増大の一途を辿りはじめ、
ツテを頼って他の歯科医で予約を入れてみたところ、事態は急変し、
件の台詞となったのである。

現実はこうだ。
昔治療した歯の根が膿み、それが歯茎に出てきていた。
膿は骨をとかし続け、土台の骨を殆どなくし、脆くなった土台の上で歯が割れるようになった。

対処としては歯を抜き、膿を止めるしかないのだが、その後の治療で必須となる土台が足りないのである。
町医者では見たことが無いほどの不足分らしい。

一刻も早く抜かないとまずいということで、抜歯したのはよいが、次の治療が開始できない。
そんな治療をするにあたっても、ある程度の歯肉は必要だが、それが無いから治療に来たのである。
「手遅れとなってしまったのではないか」と頭の中が冷や汗をかき始め、呆然とする他無い。
その前には、文字通り考える葦と化した白衣が立ち尽くしてるばかりである。


過去の歯科医とのやりとりと、現状のあまりの違いに、笑いがこみ上げてくるのを我慢できなくなる。
失笑が苦笑に変わり、現実の酷さにげんなりとし始めた頃、
それまで悩みこんでいた白衣は顔を上げ、静かに一言呟いた。
「まず、骨移植をしましょう。出来るかわかりませんが、それしか先に進めません。」


かくして、次の一手が打てるか否かを調べる為、次回診療は大学病院へと場をうつす。


ギネスにのれるかどうかは、明日、判明する。
      
 
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